UNISON SQUARE GARDEN 20th
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UNISON SQUARE GARDEN 20th

UNISON SQUARE GARDEN 20th Anniversary LIVE

オーケストラを観にいこう
ライブレポート

7月25日 日本武道館
Writer:蜂須賀ちなみ Photographer:Viola Kam (V'z Twinkle)


結成20周年を迎えたUNISON SQUARE GARDENによる日本武道館3DAYS公演。2日目は『オーケストラを観にいこう』。バンド結成日の翌日、7月25日には、UNISON SQUARE GARDEN初のストリングス&ブラスセクションを迎えたライブが開催された。

そもそも武道館3DAYS公演は、「2024年7月24日は何としても武道館を押さえたい」というメンバーの想い、「ピンポイントで狙うのは難しいから、連続した複数日を申し込むのがいいだろう」というマネジメントやイベンターからの提案によって実現したものだった。そんなエピソードからも分かるように彼らにとって7月24日は特別であり、25日、26日は違う内容になりそうだと想像できたが、まさかオーケストラとは! 斜め上の発想だ。それにユニゾンはライブでサポートメンバーを入れず、対バンでもステージ上でコラボはせず、3人でステージに立つことにこだわり続けたバンドだから、この機会はなおさら貴重。今日を逃せば次はいつ観られるのか分からないという特別感満載で、周年にふさわしい試みだ。

メンバーにとっては、実験的な楽しさのあるライブだったのではないだろうか。一方、オーケストラとの共演には大規模な編曲作業が必要であるほか、出音を整えるにも相当な労力がかかることは想像に難くない。ただでさえ多忙な、そして企画倒れを避けたいアニバーサリーのタイミングで“未だかつてない挑戦”に踏み切ろうという判断に、20年止まらずにやってきたバンドの胆力を感じた。

そうして開催された『オーケストラを観にいこう』は、前日とはまた違う意味で「伝説のライブ」と断言できる内容だった。ロックバンドのためにオーケストラが存在しているのではない。オーケストラのためにロックバンドが存在しているのでもない。両者の化学反応を信じて構成された画期的なアレンジ、豊潤なアンサンブルは何よりも楽曲のために存在していて、全ての楽曲が「音楽ってこんなにも素晴らしいのだ!」という祝福の歌として機能していた。

そんな素晴らしいステージ作りに欠かせなかったのが、全曲のアレンジと当日の指揮を務めた伊藤翼だ。伊藤は「kaleido proud fiesta」「いけないfool logic」をはじめとした近年の楽曲に、共同編曲としてクレジットされている人物。田淵の書いた曲やUNISON SQUARE GARDENのアンサンブルが有する個性やトゲを削がず、むしろ全部楽しみながら跳ね回るようなアレンジは、オーケストラにも精通する伊藤がいてこそ実現したものだろう。さらに、キーボード奏者として、成田ハネダ(パスピエ)も参加した。ユニゾンと成田の共演は、2019年の『Thank you, ROCK BANDS! 〜UNISON SQUARE GARDEN 15th Anniversary Tribute Live〜 』ぶり。5年空いていると久々な感じがするが、先述の通り、そもそもユニゾンは他のミュージシャンと一緒にステージに立つ機会がかなり少ない。そのわずかな機会を二度も共にしていることから、ユニゾンメンバーからの厚い信頼が窺える。

斎藤宏介と田淵智也と鈴木貴雄に、伊藤と成田、さらに弦楽器15名、管楽器16名、打楽器2名の大編成で、UNISON SQUARE GARDENはこの日のライブに臨んだ。

会場に入ると、BGMとしてクラシックが流れていたのが新鮮だった。開演時刻付近に流れていたのはラヴェルの「ボレロ」で、曲が終わるのと同時に暗転。さらにライブの始まり方は、「開演の合図としてブザーが鳴る」「オーケストラのメンバーがオーボエのAの音に合わせてチューニングする」などクラシックコンサートの様式を踏襲したものだった。これから特別なライブが始まるのだ、いったいどんなステージになるのだろう、という期待が、観客一人ひとりの心の中で膨らんでいく。

チューニングが終わると、伊藤と成田、スーツ姿の斎藤が入場。斎藤が恭しく一礼し、1曲目の「アンドロメダ」が始まった。原曲同様ギターのパートはなく、斎藤は歌に専念するスタイル。斎藤のボーカルとオーケストラのサウンド、星空を思わせる照明が一体となり、夢のように美しい情景を描き出した。考えてみると、ほぼ休みなく26曲を歌ったライブの翌日にこのオープニングとは、ボーカリストにとってかなりシビアな局面だ。しかし、さすがの斎藤宏介。これまで重ねてきた鍛錬の時間を経糸に、今この場所で立ち上がらせる集中力を緯糸にして織られたボーカルは、乱れを知らず端正だ。斎藤はUNISON SQUARE GARDENにとって最高のギター&ボーカルだが、同時にそもそも最高の歌い手でもある。そんなことを改めて感じさせられたオープニングだった。

「アンドロメダ」終了後、斎藤と同じくスーツ姿の田淵、鈴木が合流してフル編成に。鈴木の奏でるイントロのフレーズに、スケールを駆け上がるストリングスが重なり、2曲目の「フルカラープログラム」へ突入だ。宇宙へと突き抜けるような、大スペクタクルサウンド! リッチなサウンドを背負ったメンバーはとにかく気持ちよさそうで、斎藤はギターを掲げながら、鈴木はその場で立ち上がりながら、四方のファンにアピールしていた。「フルカラープログラム」は、UNISON SQUARE GARDENがインディーズ時代から大事に歌い続けてきた曲。モノクロの世界を覆そうと田淵が約20年前に作ったこの曲は、メンバーやファンにとって当時からずっとカラフルだったが、過去最大規模の編成で、様々な色彩をパレットに並べながら、解像度高く表現されているのが非常に喜ばしい。大いに沸いているファンも、おそらくメンバーも、「本当にいい曲だな」と改めて感じていたはずだ。

大所帯によるアンサンブルを束ねるのは、ビートを担うドラマーの役割。背中合わせの立ち位置にいる鈴木と伊藤が、連携して全体をまとめている構図が新鮮だ。間奏では斎藤と田淵がドラムセットの前で向き合い、鈴木ともコンタクトを交わしながら楽器を掻き鳴らす。音楽にノる3人は、とてもいい表情だ。きっと誰にも文句なんかつけられないであろう“完全無欠のロックンロール”が武道館に響きわたると、客席から大きな歓声が。そして斎藤が演奏後に「みなさま、こう見えてもUNISON SQUARE GARDENです」と挨拶すると、観客が長い長い拍手を送った。開始2曲にしてクライマックスかのような盛り上がりだが、無理もない。それほど素晴らしい演奏だったのだ。メンバーは観客のリアクションを受け取りながら笑顔。この編成の手応えを早速感じていたことだろう。最初のMCでは、斎藤が今回の編成を“USGフィルハーモニック”と呼び、ライブの前半はストリングセクションとともに演奏することを説明。観客に「ごゆるりと楽しんでいってください」と伝えた。

そして3曲目は「さわれない歌」というたまらない選曲。音源ではシンセが鳴らしていた音やメロディが生のストリングスで再現される嬉しさもありつつ、Aメロの印象的なフレーズをストリングスも一緒に奏でていたり、Dメロにオブリガード的な動きがあったりとアディショナルアレンジも盛りだくさん。天にも昇る心地だ。次の曲「君はともだち」は「アンドロメダ」と同様、ギター、ベース、ドラムのパートがなく、斎藤が歌に専念するアレンジだ。冒頭は斎藤のボーカルと成田の鍵盤の二重奏で、イントロに入ると、ストリングスが流麗なフレーズを奏でながら合流。真心のこもった斎藤の歌。薄明光線のようなオーボエの音色。クライマックスに向かう際の、春風が舞い込むようなダイナミクス。ボーカルのメロディを木管楽器が引き継ぎ、斎藤の歌う「ラララ」のパートへと繋げたアウトロ。美しい場面ばかりで、客席の私たちは息を呑むほかなかった。

ここで成田による鍵盤ソロ。2019年のライブでも「成田くんのピアノがめちゃくちゃすごいんだということを、オーディエンスに知ってもらいたい」というユニゾンメンバーの想いから、ソロパートを任せられていた成田。今回のライブではリフから発展する攻めのフレージングで魅せ、類まれなるセンスを発揮していた。成田はソロを締め括ると、新たなフレーズを弾き始める。ファンにとって聴き覚えのあるそのフレーズは、「harmonized finale」のイントロで、2019年のセルフオマージュというべき演出とともに同曲は鳴らされた。ボーカルの滑らかなフレージングは天の川のようで、鍵盤やシンバルのブライトな音色は星の瞬きのよう。ヴィオラやチェロによって中低音域が豊かになったのも相まって、雄大な景色をイメージすることができた。

「kaleido proud fiesta」でも生命力溢れるサウンドが届けられ、客席は“あのアレンジを生で聴けた喜び”に包まれた。中でも印象的だったのが、鈴木が凄まじいプレイを繰り広げる裏で、伊藤が真剣な眼差しで食らいつき、ストリングスセクションへ指示を出していたこと。バンドとストリングスセクションがどちらも譲歩せず、かち合いながら高みを目指していたのが最高で、〈トップスピードは更新中 ついて来れるか/等比級数的にロマンチックになる 見逃さずになぞっていこう〉という歌詞を地で行く展開となった。

そして「kaleido proud fiesta」終了後に流れてきたのは、ここ1~2年のユニゾンライブでよく耳にしたSE。このSEが「カオスが極まる」の導入であることを記憶していたファンも多かったと思うが、とはいえ「えっ? あの曲をストリングスと一緒にやるの?」という話である。しかし驚くと同時に、このバンドならではの妙技が見られるのだと反射的に理解し、次の瞬間には興奮とともに歓声を上げているのがユニゾンファン。そして、全部承知の上で仕掛けてくるのがUNISON SQUARE GARDENだ。3人の鳴らす重心の低いサウンドに、奔流を思わせるストリングスが重なり、始まったら最後、猛烈な接戦を繰り広げる。ユニゾンのアンサンブルは引き算・割り算よりも、足し算・掛け算のイメージがあるが、それにしてもこの音数、飽和スレスレである。間奏なんてもはや轟音。外へ音楽を届けようという意思を持って鳴らすのがアーティストだとしたら、自分との闘いしか眼中にない今この瞬間の彼らはさながらアスリート。魔改造された「カオスが極まる」、笑っちゃうくらい凄まじかった。

間を空けず、興奮冷めやらぬ中で演奏された「オリオンをなぞる」も痛快だ。斎藤がリズムに乗りながら、音符にアクセントをつけて発声する一方、田淵はスーツでも構わずにステージ上を駆け回っている。その傍らに、「いいぞ、いいぞ!」という感じのジェスチャーをしながら喜ぶ成田。鈴木が手数を増やすと、伊藤も一緒になってノリノリに。ラストには鈴木が天高く掲げたスティックを振り下ろし、楽曲を締め括った。

ここで暗転&小休止。MCに入ることを察したオーディエンスが一斉に給水しているのが面白いが、これは近年のユニゾンのライブでよく見る光景だ。オーケストラと一緒だからおしとやかに、ではなく、普段と変わらず、もしくはそれ以上にエネルギッシュに攻めるのがUNISON SQUARE GARDEN。ここまで8曲を終えた感想として「ちょっとすごすぎるな」と呟いた斎藤は、「来年以降、UNISON SQUARE GARDENが30人編成になってるかも。印税も30分割になるけど……それでもいい……!」と嬉しそう。そして彼らは喜びを噛みしめながら、前半ラストの楽曲「春が来てぼくら」を奏でた。

15分の休憩を挟み、ブラスセクションとのステージがスタート。後半一発目に演奏されたのは「like coffeeのおまじない」で、ブラスによる華やかなサウンド、「get ready! 武道館!」とアレンジされた斎藤の前口上、スウィングするリズムが観客に高揚感をもたらした。続く「フライデイノベルス」は、音源ではブラスが入っていない曲。イントロのメロディをブラスが増強し、要所要所でキメやフォールが入ることで、こんなにもゴキゲンな仕上がりになるのかという発見があった。

そして、ここからが新展開。斎藤が「ただでさえ後にも先にもないスペシャルな夜ですけど、せっかくの20周年なので、友達を連れてきました」と告げ、なんと、イズミカワソラの登場だ。ゲストの出演があるという情報は事前に明かされていなかったため、観客にとっては嬉しいサプライズ。2~3月のツアー『UNICITY Vol.2』で全国をともにまわり、アンサンブルに磨きをかけたユニゾンとイズミカワが披露したのは、イズミカワがレコーディングに参加し、MVに出演している楽曲「mix juiceのいうとおり」だ。斎藤から「ソラさん、もしよろしければタイトルコールしてもらっていいですか?」と促されたイズミカワが、タイトルコール後、イントロのテクニカルなフレーズを笑顔でさらっと弾いてみせる。改めて思うが、とんでもないスキルの持ち主。彼女の奏でるメロディをきっかけに、場内には瞬く間に幸福感が広がっていく。曲中にはイズミカワの軽やかなフレーズと、膝をついてギターを鳴らす斎藤のフレーズが掛け合いを繰り広げる場面もあった。

ステージ袖へトコトコと歩いていくイズミカワを「……妖精だったのかな?」と見送った斎藤は、「さて、お祝いに来てくれる友達はまだいます」と観客に伝える。ここからは、ユニゾンとゆかりのあるミュージシャンが次々と登場する展開。「いつのまにか『Thank you, ROCK BANDS!』の再来か?」と驚き喜ぶオーディエンスの前に、マーチングバスドラムを叩きながらやってきた次のゲストは、BIGMAMAのドラマー・Bucket Banquet Bisだ。Bisの目は「USG」と光っており、斎藤と田淵は覗き込みながら笑顔。そして「ドラマーの悲願を叶える」と宣言したBisは、普段のライブではドラムセットから動くことができない鈴木にマーチングドラムを託すと、自身がドラムセットに座った。この体制で「恋する惑星」がスタート。鈴木はマーチングドラムを叩いたり、センターのマイクでコーラスをしたりしながら、ステージを自由に動き回り、持ち前のチャームを発揮して歓声を浴びている。見渡す限り笑顔ばかりの、かつてなく楽しい「恋する惑星」であった。いつものライブではまず有り得ないハッピーな光景を実現させたBisの存在は偉大だ。

Bisを送り出すと、「さあ、まだ祝ってくれる友達……というかファンが紛れ込んでます」と斎藤。そんな紹介を受けて、「UNISON SQUARE GARDENのファンです。20周年おめでとうございます!」と現れたのは、ハンブレッダーズのギタリスト・ukicasterだ。ユニゾンのファンクラブに入っていて、前日公演には自らチケットを買って来ていたというukicasterは、「桜のあと (all quartets lead to the?)」のMVにエキストラとして出演している。4人は「うきくんは当時から輝いていた」「田淵が“監督、この子抜いてください”と伝えていた」といった裏話とともに、ステージ上での再会を喜び合った。そして「じゃ、思い出の曲やりますか」と演奏されたのは、もちろん「桜のあと (all quartets lead to the?)」。楽曲の冒頭で田淵とバトルするように弾きまくっていたukicasterは、のちに田淵からステージの真ん中へ送り出され、センターでフレーズを奏でては客席からの歓声を浴びる。ギターソロは斎藤とのツインギタースタイルで、3度でハモる王道プレイが最高。そのほかのプレイも楽曲に対する深い解釈や、ギタリストとしての確かな腕に裏打ちされたもので、ユニゾンが彼に声を掛けた理由が分かった気がした。

斎藤が「続いては……」と告げると、「今度は誰だ?」という感じでどよめきが広がるが、ここで「オンドラムス・タカオスズキ!」と意表をつき、ドラムソロへ繋げた。鈴木のプレイは超エネルギッシュで、オーケストラやゲストの面々から受けた影響をドラムで返そうというミュージシャンシップが感じられる。そして観客だけでなくブラスセクションも鈴木に拍手を送るなか、最後のゲスト・東京スカパラダイスオーケストラのホーンズ=NARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(T.sax)、谷中敦(B.sax)が登場。ブラスが計13名となり、豪華絢爛なサウンドで「君の瞳に恋してない」が鳴らされた。この音を浴びてテンションが上がらざるを得ないのは、観客のみならず演者も同じなのか、ステージ上のユニゾン&スカパラメンバーの足取りは軽やかだ。2サビ後の間奏は、ホーンズ4名によるソリ→斎藤のソロという流れで、ホーンズの音圧に送り出された斎藤は、無邪気にギターを掻き鳴らしていた。

さらに鈴木の気合いの入ったカウントから「徹頭徹尾夜な夜なドライブ」がスタート。「2曲もやってくれるんですか!」という喜びとホーンズの鳴らすド派手なイントロによって、オーディエンスのテンションはもう一段階跳ね上がった。ホーンズはアディショナルフレーズをガンガン入れているし、ユニゾン3人もメラメラと燃えている。これぞコラボの醍醐味という感じの熱演。2曲の演奏を終えると、谷中が「呼んでくれてありがとう! おめでとう! ホントすごいね、3人とも。スカパラは9人だから3倍の働きだってよく言ってる。サザンガキュウ!」とユニゾンメンバーに伝えた。それを受けて斎藤が、スカパラがデビュー35周年を迎えることに言及しながら「これからもデカくて渋くてカッケー背中見せてください!」と伝えると、さらに谷中が、ユニゾン3人への褒め言葉を連発。嵐のように現れて、嵐のように去っていったスカパラホーンズであった。

“USGフィルハーモニック”の38名にゲスト7名が加わり、総勢45名で作り上げたこの日のステージ。ライブ終盤で斎藤が口にした「いやー、本当に本当に、UNISON SQUARE GARDENを20年続けて、こんなことが実現するなんて夢にも思ってなかったです。今日が生きてきて最大のご褒美かもしれないですね」という言葉からは、確かな興奮が伝わってきた。そしてストリングスセクションが合流し、フル編成のオーケストラによって「いけないfool logic」が鳴らされる。イントロから圧巻のサウンド。テンポの変化があり、切り替え時のリズムのとり方も独特なこの曲は、バンドを20年続けてきた3人の阿吽の呼吸によって成り立っている印象があるが、鈴木と伊藤の見事な連携によって、その呼吸がオーケストラにも共有され、うねるようなダイナミクスが生まれた。そしてラストがバシッと締まると、全力ダッシュののち、全員同時にゴールテープを切ったかのような爽快感で場内が満たされる。これが着座必須のクラシックコンサートだったら、間違いなくスタンディングオベーションが起きていた。

鈴木渾身のフィルインから始まった「シュガーソングとビターステップ」は、祝祭の夜に宛てられたテーマソングに聴こえてしょうがない。だって、まさに、“世界中を驚かせてしまう夜”になったではないか! 〈祭囃子のその後で 昂ったままの人 泣き出してしまう人/多分同じだろう でも言葉にしようものなら稚拙が極まれり〉という歌詞は、客席の光景やオーディエンスの心境と重なるもの。斎藤が「今日が生きていて最大のご褒美かもしれない」と言っていたのと同じように、リスナーも、こんな日があるから日常を頑張れるのだ。楽曲の終盤では、オーケストラのメンバーが立ち上がって演奏するパフォーマンスも。演奏終了と同時に客席からは大歓声が上がり、メンバー3人は、降り注ぐ拍手喝采をしばらく浴びていた。

ギターをチューニングする斎藤の口角が少し上がっている。素晴らしい夜だったが、ついにラストソング。斎藤が「この特別な夜を一緒に過ごしてくれてありがとうございました。次で最後の曲です」と告げると、この日のライブタイトルにもなった楽曲「オーケストラを観にいこう」が披露された。これまでのライブではSEが担っていた前奏も生音で再現されるという、スペシャルバージョンである。会場中の照明がつき、紙吹雪が舞うなか、田淵は全開の笑顔を観客に向けていた。〈一瞬の連続が最高の楽譜になるように〉という言葉がこのライブを象徴する言葉として、そしてUNISON SQUARE GARDENのバンド人生を祝福するフレーズとして鳴り響く。斎藤のロングトーンがどこまでも伸びていくなか、ラストは鈴木が指揮を振るような動作をしてから楽曲を締め括った。全曲終了後、メンバー3人は伊藤や成田とハグや握手を交わし、喜びを分かち合ってから、「せーの、ありがとうございました!」と挨拶してステージをあとにした。そして、この日の立役者は彼らだけではない。会場では、オーケストラメンバー全員の姿が見えなくなるまで、熱い拍手が続いていた。