UNISON SQUARE GARDEN 20th
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UNISON SQUARE GARDEN 20th

UNICITY Vol.2
ライブレポート

3月20日サッポロファクトリーホール公演
Writer:蜂須賀ちなみ Photographer:Viola Kam (V'z Twinkle)
最初の10年は勢いで駆け抜けられるから、バンドを持続させる力が試されるのはこれからだし、お祝いするにはまだ早いという姿勢を貫いた結成10周年。「これが最初のアニバーサリー」と特別感のある企画を打ちつつ、バンドのこれまでの道のりを総括、祝福した15周年。アニバーサリーの迎え方はバンドの数だけあるが、UNSON SQUARE GARDENの場合、メンバーの中にあった「ロックバンドは20年やってこそ」という感覚がバンド人生の過ごし方に深く関わっていた。そして2024年7月24日、バンドは結成20周年を迎える。今年1月1日に立ち上げられた20周年の特設サイトには「ちゃんと幸せになる準備もしてる。」というキャッチコピー。「ここを目指してやってきた」というような温度感は各所インタビューでの発言やこれまでの作品から感じられたが、その20周年がついに、いよいよやってくるのだ。単に時が来たわけではなく、今こそ我が世の春と言わんばかりに、バンドのコンディションもよい。15周年の時も最高だったけど、さらに特別な1年が始まるのかと思うとワクワクが止まらない。
そんな20周年の幕開けを飾ったのが、オフィシャルファンクラブ「UNICITY」会員限定のワンマンツアー『UNICITY Vol.2』。2月4日の東京ガーデンシアター公演から3月20日のサッポロファクトリーホール公演まで、全国11公演にわたって行われた。全公演に、ユニゾンがライブのオープニングSEとして使用している楽曲「絵の具」を歌うイズミカワソラが参加。ユニゾンとイズミカワが同じステージに立つのは、2019年の『fun time HOLIDAY 7』および『Thank you, ROCK BANDS! 〜UNISON SQUARE GARDEN 15th Anniversary Tribute Live〜 』以来5年ぶり。しかも前者はコラボなしの純然たる対バンだったため、4人が一緒に演奏する機会は本当に貴重だ。それが1公演限りでなく11公演通して実現するということでこのツアーは特別、そしてこのツアーから始まる20周年は超特別というわけだ。

ユニゾンがライブ開演時に「絵の具」を流すようになったのは十数年前。ライブをやるにはSEが必要だということもよく知らなかったアマチュア時代に、元々いちリスナーとしてイズミカワのCDを購入していた田淵が、「絵の具」をSEにするのはどうだろうと提案したところ、斎藤と鈴木にもしっくり来て今日まで使い続けているそうだ。

ライブ中、音楽を心から楽しむ彼らを見ていると、「私もUNISON SQUARE GARDENのように生きたい」と思うことがある。斎藤も田淵も鈴木も人間だから完璧な存在だとは言わない。しかしバンドと音楽のことを一番に考え、自身の請け負う領域を極めんとする3人の中間点で立ち上がるバンド・UNISON SQUARE GARDENの佇まいは孤高で美しく、ライブでの3人は、日々の雑念を舞台袖に置き、誰よりも純粋な存在としてステージに立っているように見えるのだ。20年もバンドを続けていれば、きっと楽しいことばかりではなかっただろう。その上で彼らは「ステージに立てばチャラになる」と言う。「ライブがあったから続けてこられた」とも言う。「絵の具」という楽曲の凛とした響きは、楽しくも神聖な遊び場へ向かう3人の背中を約20年にわたって押し続けた。

そんな「絵の具」の生演奏からライブはスタートした。ユニゾンのライブでは毎回流れていた曲だから、メンバーだけでなくファンも愛着を持っている。イズミカワの鳴らす鍵盤のコード、澄んだ歌声を生で聴けている感慨を噛み締めるように、観客は演奏に聴き入っていた。メンバーが2015年の日本武道館公演『fun time 724』で聴いた時にグッときたという〈1人きりじゃ行けないトコへ 行こう…行こう…〉というフレーズがある箇所は、2019年の舞洲公演『プログラム15th』含め特別な日にしか流してこなかったが、今ツアーではその箇所もイズミカワの生の声で歌われるのだからたまらない。さらにイズミカワの粋な計らいによって、その先の歌詞も〈1人きりじゃ行けないトコへ みんなで行こう…行こう…〉と替えられた。
「絵の具」を終えると、イズミカワの奏でるコードが変化していく。やがて斎藤の歌が加わって始まったのは「春が来てぼくら」。斎藤のボーカル&イズミカワのキーボードによる特別なアレンジだ。予想の斜め上を行く選曲&アレンジだが、〈また春が来て僕らは新しいページに絵の具を落とす〉というフレーズが前曲からの繋がりを感じさせる。また、立春の日に始まった、バンド人生における春の開幕を告げるツアーにぴったりの選曲とも言える。1番ではイズミカワがシンプルにコードを鳴らし、斎藤がしっとりと丁寧に歌う。鍵盤のフレーズに動きが出てきた2番以降は、リズムやアクセントなどの細かなニュアンス、呼吸を共有しながら二重奏を展開していった。互いのパレットを持ち寄りながらのアンサンブルは、2色に留まらないほど彩り豊か。音楽で会場に春の風を吹かせる。

田淵と鈴木も登場し、斎藤がエレキを構え、3曲目は「harmonized finale」。イズミカワの鍵盤という翼を得たバンドアンサンブルは透明感も勇敢さも倍増している。ここで斎藤が「UNISON SQUARE GARDENです。ゲストはイズミカワソラさん!」と挨拶。この編成を“ハイパーUNISON SQUARE GARDEN”と呼びつつ、「余すところなく、最高の内輪ノリをお届けしようと思います」と観客に伝えた。

そして、2019年リリースのトリビュートアルバム『Thank you, ROCK BANDS! 〜UNISON SQUARE GARDEN 15th Anniversary Tribute Album〜』でイズミカワがカバーした「ガリレオのショーケース」がスタート。原曲を少し変化させたリフと「絵の具」から引用したループコードが印象的な、イズミカワの編曲&歌唱によるバージョンだ。なお、トリビュート盤ではボーカル、ピアノ、ドラムをイズミカワが1人で担当(!)。ギターとベースは音源にないため、斎藤と田淵によるアディショナルアレンジとなる。イズミカワの放つほんわかオーラ&超絶フレージングに癒され、ぶん回され、笑顔にさせられ、一緒になってやんちゃするユニゾン3人は心底楽しそうで、「春風なんて穏やかなものじゃない。これは花嵐か?」というレベルの強烈なグルーヴが生まれている。間奏では、斎藤の「ソラさん!」「貴雄!」という呼びかけに応じてイズミカワと鈴木が交互にソロを披露するスペシャルな場面も。直後に待ち受けるのは斎藤のギターソロ……なのだが、「あれ? 原曲キーに戻ってる?」と思った時には事件は既に進行中。間奏後にボーカルをとったのは斎藤で、つまりこのツアーでの「ガリレオのショーケース」、イズミカワ版とユニゾン版のマッシュアップアレンジだったのだ。ただでさえぶち上がっていた観客も、気づいた順にもう一段階跳ね上がる。

ここまでの4曲を終えてイズミカワが一旦ステージを去るが、この先の展開もまたすごかった。「こんな感じで最後までやってこうと思います。よろしく!」という斎藤の挨拶をきっかけに、3人で楽器を掻き鳴らしまくる激しいセッションがスタート。そうして空気を一変させたあと、ギターリフだけが残り、雨冷えのような静寂。次に演奏されたのは、インディーズ時代からある楽曲で、ライブで演奏されるのは5年ぶりの「水と雨について」だった。後ろにある「UNICITY」の看板には雨だれが伝っているような照明演出が施される。ジャキッとした音色のギターリフ。歪みを効かせたベース。ベースソロに対し手数で伴走するドラム。「貫禄」や「落ち着き」とは無縁の場所で、青かった時代の自分たちと張り合うように燃焼した結果、20年続いたバンドだからこそ出せる迫力ある音が鳴っている。矛盾しているようで矛盾していないバンドマジックだ。
今年結成35周年を迎えるthe pillowsへのリスペクトが満載の「RUNNERS HIGH REPRISE」も、ライブで演奏するのはわりと久々。最新シングルカップリング曲で、20年間で唯一の“作曲:UNISON SQUARE GARDEN”の曲「あまりに写実的な」はこのツアーでライブ初披露。8曲目に「三月物語」が来た辺りで「なんだかカップリング曲が多いな」「『Bee-side Sea-side』の再来か?」と思った人も少なくなかっただろうが、「おっ、このビートは」「このリフは」「この特徴的なクレッシェンドは」というふうに身体を揺らし始めたり、静かに興奮したりしている観客の様子を見ていると、さすが精鋭揃いのファンクラブツアーという感じがする。「mouth to mouse(sent you)」からの「シグナルABC」でこのブロックが締め括られると、観客はテンションの高い歓声をステージに届けた。

MCでは斎藤が、「『UNICITY』の発足が2015年。『UNICITY Vol.1』の時はどれくらい来てくれるのか分からなかったから小さめのハコを押さえたんだけど、観られなかった人が多かったから(翌年に)Vol.1.5をやって」「Vol.2までに8年かかっちゃいましたけど、楽しくやれてます!」とツアー実現の経緯を改めて説明。その上でツアーの感想を「すごく楽しかったです。だって、こんなに誰も知らないような曲ばかり……サブスクにあるんだかないんだか分からないような曲ばかりやっても、ちゃんと楽しんでもらえるんだなと実感しましたし。勘違いしそうになるので、ほどほどにやろうと思うんだけど(笑)」とまとめた。

そのあと、「内輪の極地を今からやろうと思います」と始まったのは、Vol.1やVol.1.5の時にもあった、メンバー3人がそれぞれメインボーカルを担当するカバーコーナー。初手は、斎藤のボーカルによる新しい学校のリーダーズ「オトナブルー」だ。歌謡曲のエッセンスを多分に含んだ原曲を80年代ジャパニーズロックに変換しつつ、楽曲を印象づけるあのリフレインをギターで弾いては、休むことなくマイクに向かい、原曲キーで歌い上げる。初めは意外な選曲だと思ったが、曲が進むほど納得の選曲だと思わせられた。ラストのボーカルが重なるところでは、田淵→鈴木→斎藤の順に歌うという熱い展開だ。
観客が拍手喝采を送ると、「バンド結成して20年経ちますけど、一生懸命練習しました」と微笑む斎藤。「そして、ここで終わらないのがUNICITYライブです」と次に披露されたのは、田淵のボーカルによるSURFACE「それじゃあバイバイ」だ。カラッと明るいメロディがストレートで熱い田淵の歌声を際立たせているし、その逆も然りという親和性の高い選曲だ。なお、SURFACEとUNISON SQUARE GARDENは過去に対バン経験があり、田淵は2014年に椎名慶治(SURFACEのボーカル)に楽曲を提供している。かなりしっくりくるカバーになっていたのは、二者の間にあるシンパシーやリスペクトゆえかもしれない。

「ここで終わらないのがUNICITYライブです。次は誰だろうね?」と斎藤はわざと言うが、この場にいる誰もが次は鈴木だと察している。斎藤いわく、「ドラムボーカルじゃつまんねえ」と“ドラムリコーダーボーカル”に挑戦したという鈴木。リコーダーといえば昨年流行ったこの曲、ゆこぴの「強風オールバック」だ。右手でドラムを叩き、左手でリコーダーを吹き、原曲にある「プピィ」みたいな音も再現し、イントロが終わると左手をスティックに持ち替え、歌を歌い、間奏に入るとまたリコーダーを吹き始める。「曲芸か?」とツッコまざるを得ないほどすごいことをやっているのだが、すごければすごいほど、「いったい我々は何を見せられているんだ?」感が増すのがとてもいい。
「大人の悪ふざけ」「遊びこそ全力で」的なテンションのカバーコーナーだったが、今回披露した3曲は、各メンバーが選んだ“自分が歌いたい/カバーしたい曲”とのこと。三者三様のアプローチから透けて見えたのは、メンバーそれぞれのキャラクターや、UNISON SQUARE GARDENというバンドのどの面を担っているかという部分であり、単にレアなだけはない、濃くて情報の詰まった場面だった。普段のユニゾンのライブではカバーはまずやらないため、観客に対して「門外不出でお願いします。宴会芸みたいなもので、仲間にしか見せないですから」と伝えていた斎藤。普段“観客のことは見えても見てない”主義を貫いているバンドにもかかわらず、さらっと「仲間」と言っていたのもまた、ファンクラブツアーだからこそだろう。
カバーコーナーによって一度場が和んだが、「戻ります」と告げた斎藤のギターリフ一発で、いつものストイックなUNISON SQUARE GARDENに戻れてしまうのだからすごい。そして、インディーズ時代から演奏している剥き出しのギターロック「スノウリバース」の直後に、最新シングル表題曲でこれ以上ないほどの華やかさ&展開の多さを誇る「いけないfool logic」を演奏することで、20年の歴史を猛スピードで駆け抜けた。締めの一音をバーンと鳴らした斎藤と田淵、弦のはじき方から顔を上げるタイミング、充実の表情まで、全部揃っているのが微笑ましい。鈴木も含め、UNISON SQUARE GARDENのメンバーは三者三様だが、「カッコいいロックバンドであれ」という一点において団結し、同じ熱量で、同じ方角を目指してともに走ってきた。「スノウリバース」~「いけないfool logic」の熱演にはその歴史が凝縮されていたように思う。

「いけないfool logic」の出現によってカップリングゾーンは抜けたかと思われたが、鈴木の気合いの入ったタイトルコールで始まった「ナノサイズスカイウォーク」から再びカップリングゾーンへ。この頃には既にライブの終盤に突入。とにかく楽しい「Micro Paradiso!」では間奏での斎藤と田淵のじゃれ合い(この日は2人で向き合って回転するという謎の動きを披露)でフロアから拍手&笑いが起きたが、ボンジョルノでサルバトーレだからなのか、照明が緑・白・赤になっているのもさりげなく笑えた。極めつけは、「I wanna believe、夜を行く」。自分たちは多数派ではないが、この音楽だからいいのだという“物好き”は他にもきっといるだろうと信じて鳴らし続けたロックバンドが、磨き上げたサウンドの中で歌う〈強いだけが正義ならば ヒーローなんて要らないし〉〈快進撃ならちょっと待っててよ〉〈君は君のままでいて 僕は僕の王冠を!〉というフレーズ、どうしたってグッとくる。20周年の始まりだからなおさらだろう。鈴木による疾走感溢れるビートは、胸がいっぱいになっている私たちをもっと広い世界へ連れ出してくれているようだ。

ハイライトは続々と生まれるが、イズミカワがいるならやりそうな曲がまだ残っていることを忘れてはいけない。ということで、イズミカワが再びオンステージ。4人揃ってのMCでは、斎藤がユニゾンを代表して「ありがとうございました! 本当に楽しかったです」とイズミカワに感謝を伝えたり、イズミカワにツアーで印象的だったことを尋ねたりとリラックスしながらトークした。そして斎藤は「絵の具」とともに何千何万とステージに上がってきたと語ったあと、イズミカワのことを観客に「UNISON SQUARE GARDENにとってかけがえのない恩人で、ここまで導いてくださった方です」と改めて紹介。「そういう人と演奏しているところを、UNISON SQUARE GARDENを大好きな『UNICITY』のみなさんに観ていただきたかったんです」とツアーに懸ける想いを明かしたのだった。

「ソラさんがレコーディングやミュージックビデオに参加してくれた曲があります」と、ここで待望の「mix juiceのいうとおり」が登場。幸福感マックスで同曲を鳴らしたあと、ラストには「オリオンをなぞる」が届けられた。流星のようなキーボードのグリッサンドを合図に、バンドサウンドがいきいきと溢れ出す。ギターを掲げて全てを出しきるように弾いている斎藤も、その場で立ち上がって出しきるように叩いている鈴木も、喜び全開で飛び跳ねながら弾いている田淵も、リズムに乗って揺れながら笑顔でフレーズを紡ぐイズミカワも、みんないい表情だ。
こうして全曲の演奏を終えると、斎藤が「UNISON SQUARE GARDENと、イズミカワソラさんでした。UNISON SQUARE GARDEN、20周年始まります!」とアニバーサリーの幕開けを宣言した。〈「ココデオワルハズガナイノニ」〉。そう、ここから始まっていくのだ。こうしてスタートしたUNISON SQUARE GARDENの大切なアニバーサリー。今後、どんな見たことない景色が待っているのだろうか。