Ninth Peel SPECIAL SITE

"Ninth Peel" SPECIAL INTERVIEW

インタビューから剥いてみよう、答えが見つかるかもしれない。
Interviewer / 益子和隆
Live Photo / Viola Kam(V'z Twinkle)

バンドの歴史にチャプターを打つ"Ninth Peel"

ニューアルバム『Ninth Peel』が2023年4月12日にリリースされます。前作『Patrick Vegee』から約2年半ぶりとなりますが、どのようなアルバムとなっているのか。制作のきっかけや経緯を聴かせてください。

田淵

2年半ぶりと言われて、それでも2年半しか空いてないのかっていう気持ちですね。
僕らは急いで新曲を作らなくてもいいでしょっていうスタンスだし、ライブを飽きるほどやってやって、飽きてきたら新曲出せばいいかなぐらいな感じなので。
そのなかで関わってくるシングルの話だったり、CD出したほうがレーベルに恩返しできるよなみたいな、そんな兼ね合いでそろそろやる時期なんだろうなっていうのをぼんやり思っていました。

なるほど。

鈴木

前のアルバムでもライブでやってない良い曲、「あの曲聴きたい」というのが無限にある。
まだ過去曲でしゃぶり尽くせてないのいっぱいありますよ。

斎藤

アルバムは出したい頃に出せばいいと思いますけど、でも2年半も空いたっていう感じはないかな。
そろそろ出すかぐらいでやってきているので……わりと優秀なバンドだなって思う(笑)。

鈴木

うん、ありがとうございます(笑)。

サブスクで音楽を聴くのが当たり前となっているなかで、アルバム単位ではなくて単曲で楽しむ人も少なくないです。
そんななかでリリースされるこのアルバムにはどんなテーマがあるのでしょうか。

田淵

この曲とこの曲が繋がったらカッコいいなとか、今までやってない曲の繋ぎや、全体の曲のバランスを考えようみたいな構築のロマンは7枚目(『MODE MOOD MODE』)と8枚目(『Patrick Vegee』)のアルバムにすごくあったし、それを自分の理想のアルバムの作り方としていました。
すごく理想的なものができてだいぶ満足したっていうのもあった。で、今回は全体のバランスがどうとか繋がりがどうとか、そういった構築のロマンを考えないで作ろうって思っていました。
アルバムの曲ってその前のアルバムのツアー中にだいたいができるので、今回は『Patrick Vegee』のツアー中に作った曲がほとんど。
でも、今回はそういうのをどうでもよくして1曲1曲を作って、その後で考えようっていう気持ちで作ってた。

デビューしたてのアーティストの1stアルバムのように、今そこにある曲が詰まっているようですね。

田淵

アルバムの間を繋げるために長すぎない曲がほしいよなとかも考えたんですけど、そういうのはこれまではもっと前段階から考えていたんですよね。
1曲目として強度が強いものをって作っていくやり方はここ数年はしてなくて。
1曲できたらそれのバランスで逆張りするとか、繋がりでこういうのあったら面白いなとか、連鎖的に断片で作って、一度サラダボウルの中に全部入れてからどうやって並べようかなっていう作り方をしました。
ここ数枚のアルバムとは違いますね。

現時点でリリース3ヵ月前ですが、全11曲、曲順ももう確定しているんですね。

田淵

シングルが決まると段々曲順が決まってくるところがあって。
結果的に、曲順をいい意味であまり考えずに作っただけあって、なんですかね……それを無理やり回収するかのような曲順になった感がある。
今回は作ってるときに曲順が見えているアルバムではなかった。

自称他称“セットリストの天才”としている田淵さんのこれまでのやり方からするとだいぶ意外ですね。

田淵

いつもの俺の曲順学には基づいてはいるんですけど、絶対的勝算の下に作ってなかったのが正直なところです。
別に不安はなくて、そういうのを作りたかった。本当にさらっと、ちゃんといい曲として成立するように作った11曲が集まったらどうなるんでしょうっていうのを自分で見てみたかった。
なので、全部出揃ったあとで曲順を考えるという珍しい経験だった。

鈴木

『Patrick Vegee』における「摂食ビジランテ」や「Simple Simple Anecdote」は繋ぎ役の曲?

田淵

そうだね。

鈴木

だよね。そういうのが今回ない。

田淵

7枚目と8枚目はうまくいったというか、自分の人生のなかで達成感があるアルバムとしてできちゃって。
どっちかというと『CIDER ROAD』を作ってるときの感じに近いかもしれない。

鈴木

1曲が長くない『CIDER ROAD』みたいな。『CIDER ROAD』は繋ぎ役とか関係ないもんね(笑)。

田淵

そう。あのときは創作意欲がバグってたからね。

『MODE MOOD MODE』のインタビューでの、「俺らこれ以上のものは作れないから!」という3人からあふれ出るやってやった感を思い出しました(笑)。

田淵

すごいアルバムだったからちゃんとそう思っててほしいんですよね。
「最新作が最高傑作だ!」っていう人いるけど、俺、全く思ってなくて。時間が経ってもこのアルバムがいちばんでいいだろうみたいな。
俺のなかに新旧に貴賤があまりない。

構成のロマンでできた2作があったあとに、異なる作りのアルバムができたというのも今作の聴きどころとなりますね。この曲の並びをどう受け止めましたか?

斎藤

自分の役割は、渡された曲順をいかに良くしていくかで。ギターの音色で与える印象をどういうグラデーションで作っていくのかだと思っています。もちろんボーカルででも。
緩急だったり使い方だったり、単調にならないように曲に合った、かつアルバムトータルで捉えたときにいちばん気持ちのいいところはどこかっていうのを考えながらやってます。
結果、曲順良かったって言われたら「よっしゃー!」みたいな。レコーディングではそういうお仕事の人なんで僕は。だから今回もそれができてたらいいな。

曲順を意識して歌唱も演奏もレコーディングしているのですね。

斎藤

アルバム1枚を通して同じ手法は使わないように、飽きがこないようにしています。
毎回聴いても新鮮に感じてもらえるように。そのほうが曲のためでもあるしアルバム1枚としての意味になるので。

タイトルの『Ninth Peel』ですが、“9枚目の皮”という意味で合ってますか?

田淵

そうですね。このタイトルにすればこのアルバム何枚目だっけ? っていうのが忘れずに済みます。
収録曲の「City peel」がいい曲になって、peelって良い単語だなって考えていったという経緯です。

ジャケット写真にはリンゴの皮で「9」が。

田淵

ユニゾンのアルバムのジャケ写には動物を出さないわけにいかなくなってきたみたいなんで……peelだからオレンジかレモンかリンゴかの皮で、果物と動物っていったらアライグマかなと思って、という順序ですかね。
いつものデザイナーさんに好き勝手話していたらいっぱいパターンを作ってくれました。

サブスク時代のなかで、3人にとってアルバムを出すことの意義というか意味みたいなものはどう考えていますか?

斎藤

自分のなかでは、バンドの歴史にチャプターを打つということですかね。わかりやすくフェーズが変わるから。
去年のことを思い出してもよくわかんないけど、アルバムのツアーでというと思い出せる。
あのエフェクターを取り入れたことか、こういうことを考えた時期とかみたいに何か区切りを付けるという意味でも、やっぱりそれはアルバムだなって。

確かに、別のものでフェーズを区切るものはあまりないですね。

斎藤

ライブだと「武道館でやりました!」くらいじゃないと。いい意味でずっといつも通りが続いてるから、だからそのときそのときで素晴らしいアルバムを作ってる。
で、自分が心底納得して、聴いてもらった人がハッピーになれるようなものをっていうことを考えている時間がアルバム制作であるから、バンドの歴史のなかで9枚目のアルバムを出したんだっていうのが何年経っても残る。

鈴木

俺は特に考えてないので、逆に聞いてみたいんですけど、最近の人たちってアルバム出さないでライブできるんですか?

サブスクで育ってきた世代のアーティストで「アルバム作らないといけないですか?」という人もいる。でも作ってみると、やっぱり作って良かったという感想になってる。
斎藤くんの言う「チャプターを打つ」という意味も含めて、アルバムはミュージシャンが培ってきて自然と残ったベストな音楽活動なのかもしれないですね。

鈴木

なるほど。俺は曲作ってないので作ってる田淵に乗っかりますよ。

しっかりと1曲1曲作っていったなかで、作ってきた曲たちがまとまったときに感慨のようなものはあります?

鈴木

うん、ありますね。

それはCDになった時とか?

鈴木

あります。でもライブになるかなあ、俺のカタルシスは。

アルバムにはタイアップシングルの「kaleido proud fiesta」「カオスが極まる」が収録されています。
タイアップきっかけで作られた曲をアルバムに組み込むのはバランスが大変ではないかと想像していまします。

田淵

いや、元々シングルをやるときにはアルバムから逆算して考えています。そこも全部計算してシングル作ってるんで。
僕らはアニメの主題歌が多いですけど、アニメのタイアップはまず制作スタッフに喜んでもらうことも命題で。そことバンドの意思は両立させるっていうのを強く思っていて。
オーダーに寄り添うことはもちろんやるんですけど、UNISON SQUARE GARDENのスタンスとの掛け合わせをするアイデアはすぐ出てくるんです。
バンドのスタンスとずれちゃうのをやらなきゃいけなくなると、その曲をアルバムに入れるの嫌だなってなるだろうし。ちゃんと直接話しができれば、そこがずれることはない。
特にこの「kaleido proud fiesta」と「カオスが極まる」は本当に丁寧に作らせてもらえて。

丁寧にというのは?

田淵

制作の時間をしっかりもらえたし、CDをどう届けるかのプランもちゃんと時間をかけて作れました。
カップリングを何にするかをちゃんと考えて、今の時代のベストな答えを作った。
ラッキーなことに両方とも好評で、おそらく俺らの代表曲として機能していくと思うんですね、このあと。それがあるのでこのアルバムは安心というか、それぐらいユニゾンの歴史のなかでもトップクラスで理想通りに作れたシングルだったかな。
タイアップ作品から生まれる遠心力みたいなのがうまくいったのは過去イチなんじゃないかなと思っています。

タイアップ曲もアルバムの一部として作られ、アルバムの大事なピースになっている。

田淵

ユニゾンが好きな人が聴いて良いと思われないとやる意味がないですからね。
そのシングルがアルバムの美学を崩すようなものはそもそも作らない。
さっき斎藤くんがアルバムって歴史を語るもんだって言ってましたけど、もうそれで生きてきたので。

収録曲の「もう君に会えない」は、1月25日(水)にYouTube「DRIP TOKYO」のライブ映像で先行披露されています。この曲はアルバムのなかでどのような立ち位置になっていますか。

田淵

アルバムで毎回1〜2曲あるバラード枠です。
結果的にレコーディングの仕上がりが少し荒々しくなっているんじゃないかな。ちょっとグランジ寄りというかUK寄りな感じで、他のバラード曲とは違う感じになりました。

斎藤

特殊ですよね。宛先がわかるから、この曲。

宛先……“君”宛てで作られた曲はなかったですね。

斎藤

そういう意味で、唯一で初めて。

鈴木

歌は別ですけど、この曲だけは一発録りでみんなでやりました。

そして、この『Ninth peel』の完全生産限定盤と初回限定生産盤A/Bには特典が付くとのことです。
Zepp Yokohamaでのライブ映像(「TOUR 2022『fiesta in chaos』at KT Zepp Yokohama 2022.11.16」)。21曲分収録というのはなかなかのボリュームですね。

田淵

僕らこういうのを考えるのが好きで(笑)。
どうやったらアルバムを“買う”になるか。2020年からの社会が変容したあたりから特に意識的にやってきたつもりです。
特典は何にしたらいいだろうかは、早いうちからディレクターと話をしていました。

YouTubeでいろんな映像を見ることができる時代だけど、こういう特典のライブ映像は買うことででしか観られない。
さらに、完全生産限定盤には別のライブのドキュメンタリー映像と副音声が。

田淵

同じツアーなんですけど、青森Quarterっていうちっちゃいライブハウスでやったライブがまるっと入る予定です。同じセットリストなんですけど。

セットリストが同じでも、ライブハウスでやるユニゾンの空気感を味わえるのは貴重かと。

田淵

ちっちゃいところでやったのは久々で、ようやく念願叶った。
おもろい内容にはなってるんじゃないかな。頭を下げて、無理やり映像スタッフに青森まで来てもらいました。

この映像をまだ観てないのですが、どんな内容なんですか?

斎藤

わかんないっす、なぜならまだできてないから(笑)。
楽屋の映像とかいっぱい録ってましたね。青森Quarterだからこそ見えてくる違いみたいなのが楽しめると思いますよ。

田淵

めっちゃユニゾン好きな人はこっちも買ったほうがいいっていうのを強く訴えていこうと思います。

最後に、この『Ninth peel』のアルバムツアーの日程も発表されました。

斎藤

4月から!
今回は和歌山とかめちゃくちゃ久しぶりの場所もいくつかありますね。

田淵

白浜行こうかなあ。

熊本や郡山なども。

斎藤

神戸もね。

アルバムがリリースされてすぐのツアーは久しぶりだと聞いています。

斎藤

『Patrick Vegee』の時はリリースからのライブまでがちょっと空いたんだ。

鈴木

そうそう。

気が早いかもしれませんが、どんなツアーになるのでしょうか。

田淵

最初でも言った話になりますけど、俺らは新曲なくても全国ツアーができるのですが……
どう表現すれば良い説明なるのかわかんないすけど、俺らは今年もライブ会場が押さえられたので最新のワンマンライブをやりますっていうだけで。そこにたまたま新譜があるっていう感覚です。
アルバムツアーなんでアルバム曲をやるっていうお題と、今日のユニゾンのライブも最高となるためのセットリストにする、このふたつを両立するにはどうやったらいいかっていうのを練り混んでいます。

もう準備してるんですね。今回もセットリスト作りに苦心しそうですね。

田淵

いやあ、ムズいですよ。いっぱい今までの曲があって、そこにアルバムの11曲を全部やってくださいって言われると、あとは7〜8曲ぐらいしか入れられないじゃないですか。
その7〜8曲で幅の広さを出してくださいとなってもそれは困るよなって。アルバムを出すたびにあることなんですが。

アルバムツアー特有の苦しみ。

田淵

発表と同時に情報が出ると思いますけど、全国を2周します。
今年はアルバムツアーを2回やるんです。アルバムを出してもAパターンとBパターンで全国一周ずつすればいいんじゃないかというのを数年前にポロッと言ったことがあって。両方のライブに来たらアルバム曲を全部聴けるというのがいいんじゃないかって。
そうすればアルバム曲をセットリストに入れるのは5〜6曲で済む。そういうのも選択肢としてはアリなのかなと。結構センスと知恵が必要なのでもうちょっと練ります!